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いきなりだが。
人間って生き物は、大きく二つに分けることができると思うんだ。
そう言われると、まず真っ先に男と女という区別を思い浮かべるだろう。
しかし、今回はそんな生物学的なことは追求しないでおく。
俺が思う人間の境界線とはすなわち――『使う』か『使われる』かにある。
なぜ、そんな考えに至ったかというと、俺自身が自分を『使われる』側の人間だと自覚しているからだ――
「競馬新聞と酒、三分だ」
そして、今日も俺は使われていた。
「なぁ、姉ちゃん姉ちゃん。どうして俺は毎日姉ちゃんのためにパシられなきゃいけないんだよ」
目の前に立つ姉――朝霧千歳(あさぎりちとせ)に、俺は日々感じていたなにげない疑問を尋ねてみる。
身長百七十四センチで、俺より二センチ高い姉ちゃんは、何をほざいているんだこの愚弟はとでもいうように、
「もちろん、私の方が全てにおいて格が上だからだ。身長はもちろん、年齢も四つほど私が高く、所得格差もある。最後の項目が決め手だな」
ちなみに黒髪ロングな姉ちゃんは今年で二十二。つまり俺は十八となる。
「むぅ……所得格差って言うけどさ、姉ちゃんは中学の教師で、俺は警備員だから、お役所勤めには変わらないと思うんだけど」
「我が弟――空路(くうろ)よ。自宅警備員は職業ですらないぞ」
せっかくボケたのにスパンと斬っちゃう姉ちゃん、マジ剣士。
ちなみに空路というのは俺の名前である。ペンネームではなく実名である。
朝霧空路(あさぎりくうろ)。
男らしい名前かと問われれば、微妙と絶妙の間で激しく揺れ動くが、少なくとも俺は気に入っている。
だってさ、他の選択肢が冥殿(めいでん)だの昇太陽(らいじんぐさん)だのだって知ったら、空路なんてマシな部類だと思うじゃないか。
最近の日本の名前事情は色々おかしい。森鴎外に始まった迷走は、ついに大地(あーす)君、愛歌(らぶそんぐ)ちゃんにまで至った。
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