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しっかりと握られていた手は次第に力をなくし、パタッと力無く離れた。
微かに聞こえる規則正しい寝息。
蜜が眠りについたことを確信するとそっと抱き寄せて向き合わせる。
「無防備に寝やがって…」
そっと手の甲で頬を撫でてみる。
微かに動く瞼。
「このまま寝られるはずねぇよな…」
信用される事が辛いなんて初めての経験だった。
当然寝込みを襲う訳には行かないし、するつもりもない。
なにより、あんな悲しい顔を見たくない。
それが何なのか分からないが、蜜が大きな傷を抱えているのは確実だった。
それがそう易々と越えられる障害だとも思わない。
でももうこの温もりを手放す気はなかった。
愛しい。
その感情を知ってしまったから。
ひどく不確かで自分には必要ないと思っていた。
『愛』
きっとこの感情はそれだ。
好意を持って、
触れたくなって、
嫉妬して、
抱き締めたくなって、
離したくなくなる。
こんな圧倒的な感情は初めてだった。
客観的に見れないのも、余裕がないのも。
頭で考えるより行動が、感情が先走るのも。
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