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「あの日、半狂乱になった尚から電話があったんだ。助けてくれって。 友達が呼び掛けに反応しない。って。 すぐ救急車を要請して、俺もすぐ駆けつけた。 搬送先が見つからなくてお前のお袋さんに直接頼んだんだ。」 「うちの?」 「そうだ。俺の見立てではそれがベストだった。」 「精神科?自殺したのか!?」 思わずつかみかかる禅の手をゆっくりほどく。 「自殺じゃない。まぁ無いとも言いきれない。あれは多分拒食症だろうな。その後暫くして尚と付き合い始めて蜜ちゃんを紹介されて、あの時の子って聞いても信じられなかったよ。まるで別人だった。」 「そんなに?」 「ああ。骨と皮ってこういうことなんだって思ったよ。事情もあるだろうし、当時はまだ尚と付き合ってなかったから詳しくは聞かなかったしお見舞いにも行かなかった。だから俺が知ってるのはここまでだ。」 「そうか・・・」 「直接じゃないけど間接的には俺も関わってる。あの状態から今の蜜ちゃんの状態まで回復したのは正直簡単なことじゃないと思う。俺だってあんな姿もう二度と見たくないんだ。」 「ああ。」 「だからもう他人事じゃないんだよ。でもな・・・」 「でも?」 「お前はそうじゃない。聞かなかったことにしてもいいんだ。この問題は確かにヘビー過ぎる。ここで引き返してもお前を責めたりしない。」 勘の言葉に禅は弾かれたように顔を上げた。 「見くびるなよ。」 そう言うとニヤリと笑って勘の肩に手を掛けた。 「俺の10年ぶりの本気舐めんなよ? 今までアイツが迷惑けてすまなかったな。でもこれからは俺がいるから。」 「オイオイ、いつからお前の女になったんだよ?」 「さっきの見ただろう?」 「だからってお前の女って訳じゃないだろ?」 「だから!お前の手の内にいるって感じがスッゲー嫌なの!俺のだから。お前のみたいな言い方よしてくんねぇ?」 「簡単にお前の物にするか!今までどれだけ手塩にかけて・・あ、やべ!尚だ。じゃそういうことで。」 「おい!ちょ!待てよ!」 禅の叫びを背後に受けて勘は振り返らずに手だけを上げて行ってしまった。  
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