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尚が容赦なく勘の携帯をならし続ける中、ようやくその当人がエントランスから出てきた。
「もう!遅い!」
「悪い。」
「勘と一緒じゃなきゃ話さないって言うんだから。」
蜜はそう言って勘に詰め寄る尚の言葉に割り込むように口を開く。
「何を話してたの?」
「いや、他愛もない話。」
「あんな雰囲気で他愛もない話なんてあり得ないでしょ?」
冷静に返す蜜の表情は真剣そのものだった。
「何か心配なことでも?」
「・・・」
勘の眼差しは、何かを含んでいて。
きっと私の話をしていたであろう事は直ぐに想像できた。
「余計なことは言わないでって頼みましたよね?」
「そうだね。でもそもそも蜜ちゃんの言う余計なことって何?」
「ちょっと!私だけ除け者にしないでよね!」
勘の問いかけに覚悟を決めようと息をついた途端、尚が不満そうに割り込んで来た。
確かに尚にしてみれば何のことだかさっぱり分からないだろう。
二人を交互に睨み付けながら膨れっ面している尚が無性に羨ましくなった。
あの人と出会う前に禅と出会っていたら、私も尚みたいになっていただろうか・・・
大好きな人と屈託なく笑いあってケンカして。
ずっと一緒の幸せな時間を信じて疑わない。
そんな当たり前の幸せが掴めていただろうか?
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