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時間をかけさえすれば上手く行くのなら、いくらだって待つことは出来る。
だけど、失ったものと覚えてしまった失うことへの恐怖感は時間は解決してくれない。
「蜜ちゃん?」
勘の声にいつの間にか俯いていた顔を上げた。
「禅はね、きっといつまでも待てると思うよ?」
その言葉に涙が出そうになった。
こんなこと考えてもどうしようもないのに、やっぱりもっと早く出会えていたらと強く思った。
「勘さんには言ってなかったけど、私、多分もう妊娠できない体なんだ。自分の不注意で。だからいつまで待っててもらってもダメなんだよ。恋人未満しか出来ないってそういうこと。」
「そこまで考えて付き合い始める奴は稀じゃない?」
勘は蜜の告白に驚いていたものの、動揺を隠すように問い返した。
「それはハンデがない人の場合だよ。きっと私、もし本気で付き合ったら禅ちゃんを解放出来なくなる。それに突然目の前から消えるんじゃないかって、裏切られるんじゃないかって毎日疑心暗鬼でいっぱいになってダメだと思う。だから軽い関係じゃなきゃ。」
蜜はそう言って寂しそうに笑った。
聞き分けのない自分にまるで言い聞かせている気分だった。
そう。いまさらまともな恋愛なんてできっこないんだから。
それに、私は恐らくもう子を成すことはできない。
正確には不可能に近いという診断だったけど。
その気になってどっぷりつかってある日やって来た突然の裏切り。
そしてそんな自分を戒めるかのような残酷な仕打ち。
残ったのは傷付いた心と体だけ。
生きることに意味を見出だせず、形容するならば『廃人』だった私は、尚や弟の愛情でやっと今の状態に戻ることが出来た。
だから。
もう多くは望まない。
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