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「ねぇ禅ちゃん、何で車で来なかったのよ?」
蜜はそう恨めしそうに言った。
「いや、何となく。」
禅のマンションから蜜のアパートまでは2kmちょっと。
禅からしてみればとるに足らない距離だったが、全身筋肉痛の蜜からしてみればとてつもなく遠い距離に思えた。
「やっとついたぁ!」
30分近くかけてたどり着いた禅の部屋に上がり込むと玄関先に座り込んだ。
「たろ~!」
ヘロヘロな声で呼び掛けても太郎はやってこなかった。
「禅ちゃん太郎は?」
「今日は帰ってるよ。」
「へ?」
「あれ?言ってなかったっけ?太郎は実家で飼ってるんだけど。」
知らなかった。
てっきり禅の部屋で太郎に歓迎されると思っていたから。
「癒される予定だったのにぃ~!」
禅は玄関先で座ったまま項垂れる蜜に手を差し伸べて立たせるとソファーへ誘う。
「5分くらいでお湯溜まるから。何か飲む?」
「う~ん。いい。お風呂で飲む!」
禅はそうだね、と笑って同意すると蜜の隣に座った。
「で?何で社長とゴルフなんか?」
禅は帰り道ずっと聞きたくてたまらなかった質問をぶつけた。
蜜はグッタリソファーになだれ込むとゆっくり禅を見た。
「尚が、私を売ったの。」
「尚ちゃんが?売った?」
「ゴルフコンペの同伴者に私を売ったの。秘書なんだから尚が行けばいいのに。ちょっとゴルフ経験があるってだけなのに。」
「今日コンペだったの?」
「ううん。来週。もうかれこれ一週間近く毎日社長の特訓。お陰で体中バキバキ。体力の限界です。」
「毎日?じゃあ来週までまた毎日?」
「ううん。サスガに明日明後日は休みにしてもらったよ。明日は仕事も休み。」
「じゃあ3連休か。」
「ううん。日曜日は休日出勤と言う名のラウンド。やっぱぶっつけ本番はマズイから。」
「まさかあの社長と二人で?」
「多分ね。」
蜜の言葉に禅は大きくため息をついた。
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