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何が何だか分からないまま廊下の待合で待たされる蜜。
その頃禅は同僚の産婦人科医、横山の元にいた。
「悪いな。」
「ん?ああ、カルテ見たよ。」
横山はそう言って黙って禅に視線を移した。
禅の出方を待っているようなその瞳にはカルテから知り得た情報が軽い話では済まないことを物語っていた。
「今日ここに来たこと、美和先生は知ってるのか?」
「いや。」
「そうか。」
横山はパソコンのディスプレイに表示されているカルテに再び目を向けるとしばし考え込むように黙った。
「単刀直入に言う。彼女は無理矢理堕胎させられ、その結果妊娠が望めない体になった、と言ってる。でも何かの聞き間違いじゃないかと俺は思ってる。」
禅の言葉に横山は振り返らずカルテをスクロールする。
「酷い状態だったみたいだ。長期に渡る不正出血、膣の裂傷に子宮奇形の疑い。奇形なら確かに不妊の原因になる。あとは・・・」
さらに画面をスクロールさせていた横山の手が止まる。
「こっちだな。」
横山の指先には母親の名前。
そして記されていた内容を見てたまらず片手で口を覆ってしまった。
生命存続の意志なし。
拒食症。
失語症。
投薬の拒否。
性交渉、妊娠出産に耐えうる精神状態ではない。
言葉を無くしてカルテを見つめる禅に横山はキッパリ言い切った。
「やめとけ。」
「は?」
「他にいくらでもいるだろう?女にモテないわけじゃない。この子は重すぎる。」
横山の表情は真剣だった。
「罪滅ぼしのつもりか?」
横山の言葉に、カルテから視線を移すと静かに答えた。
「罪の意識なんて今は気にしてる暇さえないんだ。どうしたら俺のものになってくれるかだけで精一杯。」
そして困ったように笑った。
だから協力してくれよ、と。
「驚いたな。お前が女にそんなに執着するなんて!」
「自分でもびっくりだよ。毎日振り回されてる。
でも、振り回されるのも悪くはないぜ?」
「そういうところは昔のまんまだな。消防はまだ飽きないのか?臨床に戻って来いよ。」
「そうだな、体が付いていかなくなったら考えるよ。」
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