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ナースステーションの前まで行くとそこに座っていた病棟クラークに声をかける。 「楠師長はいらっしゃいますか?」 クラークは禅の顔を見上げるとニッコリ笑った。 「患者さんのご家族ですか?」 「いえ。そうじゃないんですが、ちょっとお話があって。」 焦る様子の禅に少し怪訝そうな顔を向ける。 師長に連絡するか迷っている様子が伺える。 こんな所で時間をムダにするわけにいかないのに! 禅はクラークの頭越しにナースステーションの中を見回す。 乗り出した禅にクラークはぎょっとして、大きな声をあげた。 「困ります!」 「いや、怪しい者じゃない。ちょっと師長に話があるだけだから。」 「どのようなご用件でしょう?こちらで一旦伺わせていただきますから!」 クラークのただならぬ様子に奥から数人のナースがやって来た。 「いったい何事?って、やだ!若じゃない!?元気?こんな所で何してるの?」 「小嶋!?よかった!楠さんいる?」 「師長?下だと思うけど、電話してみる?」 「頼む!」 楠師長に連絡を取る小嶋の横で禅はホッと肩を撫で下ろした。 「あ、師長。小嶋です。今どちらに?あ、やっぱり下ですね?え?ああ、ちょっと珍しいお客さんが師長に会いに見えてますよ。」 そう言うと禅にイタズラな笑みを向けた。 「もう少ししたら上がって来るって言ってるけど、どうする?」 「下に行くって伝えて、小嶋サンキュ!」 禅は小嶋の返事も聞かずに階段へ駆け出した。 「あー!行っちゃった!いまからそっちに行くそうです。楽しみにしててくださいね!」 電話を切った小嶋に若いナースが寄ってきた。 「主任の彼ですか?」 「やだ!違うわよ。あれはね、若。」 「えっ?ヤクザさん?」 「違うわよ!4人目の飯嶋先生。美和先生の弟さんよ。医者を辞めて消防士になったって聞いたことない?」 「えっ?あれが噂の若先生なんですか?院長先生の息子の?」 「そう。噂の若先生。」 そして3階産婦人科病棟は『若先生』の噂で持ちきりになった。
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