15840人が本棚に入れています
本棚に追加
/1073ページ
階段をかけ降りて2階の看護管理室へ向かう。
各階の師長たちのデスクが並ぶこの部屋は、かつて禅が在籍していた医局のすぐ並びだった。
出来れば家族には顔を合わせたくない。
しかし今はそんなこと気にしている場合じゃなかった。
管理室の入口に立つと、すぐにおばさま改め師長の集団に囲まれてしまった。
「若先生!久しぶりねぇ!すっかり逞しくなっちゃって!」
「まだ結婚してないんだって?ダメよ!いつまでも遊んでちゃ!」
「楠さんにだけ会いに来るなんて!もっと遊びにいらっしゃいよ!」
禅はアハハと乾いた笑いを返しながら、楠師長を探す。
集団の一番後方で楠はにこやかに笑っていた。
「すみません師長方。ちょっと急いでまして。楠さんにお話ししたらすぐ戻らなきゃいけないんです。」
禅の言葉に楠はやっと師長の集団を潜り抜けてやって来る。
「私、もう成人した子供もいるんだけど・・・」
イタズラっぽく冗談を言う楠に苦笑いを返す。
「残念ながらデートの誘いじゃないんです。10分だけ時間貰えますか?」
真剣な表情の禅に、楠の笑みが消えた。
「研修室でいいかしら?」
「十分です。」
禅は師長の集団に挨拶と、今日ここに来たことの口止めをすると、楠に並んで歩き出した。
最初のコメントを投稿しよう!