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「すみません、いきなり。」 「いえ、いいけど。話って?」 禅の顔つきが変った。 「覚えているでしょうか?6年前、ここに入院していた平間蜜という患者を。」 蜜の名前を出した瞬間、楠師長の顔つきも変った。 黙って禅を見つめ、そしてゆっくりと頷いた。 「あなたが何故?」 「俺の・・・ 大切な人なんです。」  楠師長は驚いたように目を見開いて、そしてフッと笑った。 大切な人、と蜜のことを語る禅が余りにも幸せそうな顔で微笑んでいたのだ。 「で、何を聞きたいの?」 「当時の担当はあなたでしたね?彼女の様子を何でも良いから聞きたいんです。」 楠師長は禅を見据えたまま黙って少し考えているようだった。 焦りを隠せない禅が答えを促そうとした時、やっと楠師長が口を開いた。 「それは私じゃなく、お母様かお姉様に聞いた方が良いわ。それに私の口からは詳しいことは話せない。理由はわかるでしょう?」 そう言われることは当然想定の範囲内だった。 そうは思っていても、やはり気を落とさずにはいられなかった。 あからさまに肩を落とす禅に、楠師長はフフフッと小さな笑いを漏らす。 「彼女があなたを変えたのね。それとも消防かしら?」 「彼女、でしょうね。」 「そうね、彼女ならきっとあなたを振り回しているでしょう?頑固で鈍感で不器用。見ている方がハラハラしてるのに本人は全然気にしてないのよね。」 禅は驚いたように楠を見上げた。 患者の個人的な話は出来ない、と言われたばかりだというのに、何故? 「本当に頑固よね?こうと決めたらガンとして譲らない。脆いくせに芯は固い。」 「そうなんです。甘えるのが下手で何でも自分の中で解決しようとして。」 「私は彼女なら大丈夫だと思って送り出したのよ?胃ろうを断固拒否して吐きながら丸一日かけて5分粥を一杯完食してみせた。あの根性があればもう大丈夫だって。後は良いパートナーに巡り会えれば、って。」 「なんかプレッシャーだな。俺は良いパートナーとして認めてもらえるのかな。」 「勿論よ。彼女を思ってこんなに必死になれるんですもの。」
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