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楠は患者の情報は話せない、と言った。
だから、敢えて個人名も出さず、共通の知り合いである禅の彼女の他愛もない話、として話をしてくれた。
勿論詳しい話は聞くことは出来ないけれど、それでも禅は話が聞けて良かったと思っていた。
師長も蜜なら大丈夫だと言ってくれた。
壮絶な、入院生活であったであろうとは思うが、そこから見事立ち直ったのだ。
後は幸せになるだけ。
チラリと時計を見るともう20分以上過ぎていた。
そろそろ診察も終わる頃だろう。
「ありがとうございました。」
「お礼を言われることなんて何も?ただノロケ話に付き合っただけよ?」
「そうでした。」
あくまでも世間話だという楠に合わせそう答えた。
「もうお母様には話を?」
「いえ、家族にはまだ。ここに今日来たことも知らないと思います。いずれタイミングを見て話すつもりなんで、できたら今日の事はオフレコで。」
「あら!?喜ぶと思うけど?何しろ退院後あなたのご実家で面倒を見ようとしていたくらいですもの。」
「ええっ!?」
楠の一言に思わず大きな声をあげた禅は慌てて口を押さえた。
実家に引き取ろうとしてただって!?
姉ちゃんはそんな事一言も・・・
「あら、呼ばれちゃった。じゃあ、今度は二人で顔見せに来てね。」
「ありがとうございました!」
PHSをポケットから出しながら席を立つ楠に慌てて礼をして、禅も外来へと急いで戻った。
やっぱり直接話を聞くしかないな。
禅は歩きながら、明日、母親に蜜の話をしよう、と決心した。
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