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「横山?」 「ううん。受付の人。若先生って禅ちゃんのことでしょ?」 禅は左手をハンドルに置いたまま右手で顔を覆って大きく溜め息を吐く。 「若先生?教祖様?どっちで呼ばれたい?」 「どっちも嫌。」 禅は顔を上げると諦めたようにそう言った。 「で?」 「で、って?」 「何で隠そうとするの?」 率直な蜜の言葉に禅は少し考えて答えた。 「ややこしいから。追々でいいかなと思って。」 「じゃ、今話そうか?」 今度は蜜がニッコリ笑った。 「ココで?」 「どこでも。 あ!そう言えばここが実家なら太郎は!?いるんでしょう?」 思い付いたようにそう言った蜜は病院に目を向けて辺りをキョロキョロ見回している。 「いるけど。」 「連れて来てよ!散歩行こ?散歩!」 嬉しそうな蜜の顔に思わず頬が緩む。 思えば昨夜からいろいろあって蜜の苦しそうな顔ばかり見ていたような気がする。 やっぱり笑った顔は良いな、などと考えながら蜜を見つめる。 そんな禅の考えなどお構い無しに蜜は禅を急かした。 「ねぇ!はーやーくー!」 「分かったよ。」 禅は駐車場を抜けた病院裏まで車を動かすと、職員用の駐車場に停車した。 「ハニーちゃんもおいで。」 太郎を探して辺りを見回しながら禅に着いていく。 小道を抜けると勝手口のような小さな門があった。 禅は取っ手に着いているボタンをいくつか押して手早く扉を開ける。 「うわ!広っ!」 扉から先に一歩踏み入った蜜は思わず大きな声を出してしまった。 「この時間なら外にいると思うんだけど・・・」 広い庭を見回すと遠くから駆け寄って来る太郎の姿が見えた。 「たろーっ!」 嬉しそうにそう叫んだ蜜の所に太郎が辿り着くまでにそう時間はかからなかった。
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