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「ここ、手入れしてる?」
「どうかな・・・正直気にしたことなかったから。」
「そろそろ蕾をつけはじめてもいい頃なのに・・・」
藪、と勘違いしたのも無理はない。
開花に向けて緑の葉を生い茂らせてもいい頃なのに、全体的に茶色の幹が目立つ。
「お袋がちょこちょこやってると思うけど。悪い状態なの?」
「うん。越冬に失敗したのかも。うどんこ病とか黒星病とかの薬の散布はやってる?」
禅はこまったように笑うだけだった。
確かに実家を出ている上に花に興味などない普通の成人男性にする質問ではなかった。
蜜は決心したようにすくっと立ち上がると真顔で禅に言った。
「近くにホームセンターある?」
「ある、けど?」
蜜はしゃがみこむと太郎に目を合わせて、申し訳なさそうに謝った。
「たろちゃん、ごめんね。お散歩出来なくなっちゃった。」
太郎は蜜の言葉をまるで理解したように小さくクゥーンと鳴く。
「剪定ハサミ買いに行こう!」
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