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「本当のお医者さんみたい。ねぇどうして辞めちゃったの?」
腰に湿布を貼られながら、ふと疑問になって聞いてみた。
普通医者になるというのは簡単なことではないはず。
実家は大きな病院を経営していて、将来も約束されている。
なのに何故?
それは当然の疑問だった。
「んー、勘が消防に入ってなんか楽しそうだったから。」
しかし禅の答えは酷く曖昧で全く真実味のないものだった。
きっと何かあるに違いない。
直感的にそう感じたものの、蜜は敢えて気付かないふりをした。
「そんな理由?単純だねぇ!」
そう笑って返しただけだった。
人には誰にも話したくない過去がひとつや二つくらいはあるもの。
現に蜜自身だってイギリスでの出来事は禅に全てを告白した今でさえ思い出すことすら嫌な出来事。
それを禅が敢えて隠すと言うならば、聞かないでおこうと。
それに・・・
聞いてしまったらもう引き返せない。
踏み込んでしまったら、もう。
自分は既にさらけ出してしまった。
気持ちは楽にはなったけど、逆に感じるのは、
禅に対する負い目。
突き放すような人ではないとわかっていながら、全てを告白して逃げ道を断たせた、
自分のズルさ。
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