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とっさに出た言葉は到底納得出来るものではなかったはずなのに、彼女は気付かないフリをした。
単純だね、と笑ったその表情は決して自然なものではなかったけど。
後悔していた。
本当のことを言えば良かったんだ。
やましいこともない。
隠すことなんてない。
だけど出来なかったのは、ただ単純に嫌われたくないという強い想い。
やましい事などないと胸を張って言えるつもりだけれど、
彼女はどう感じるだろう?
酷い男だと思われるかもしれない。
冷たい男だと。
彼女が離れて行ってしまうかもしれない。
一抹の不安が胸に過った時にはもう口を開いていた。
『勘が消防に行って、楽しそうだったから。』
何て小さな男なんだろう。
いくらでも待つ、とか。
絶対離さない、とか。
世界の果てまで追いかける、とか。
散々言ったくせにいざとなったらこの始末。
俺本当にかっこわるい。
そんな自分に酷く嫌悪感が募る。
今からでも遅くない。言ってしまおうか?
そう思い立って口を開きかけた時、今まで丸まって横たわっていた蜜がゆっくり起き上がった。
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