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未熟者
この薄っぺらな口唇は、簡単に嘘をつくことが出来るから。
今日もまた、1つ、嘘をつく。
「エミちゃん、杜君みたいな人が好きなタイプなんだって」
わたしの嘘の相手はいつも高橋で、内容はいつもエミちゃんのこと。
片想いだか何なんだか知らないけど、能天気に「エミちゃんのことだったら何でもいいから教えて」って、まとわりついてくるのが欝陶しい。
エミちゃんと話をしていると高橋の顔が頭の中にチラついて、自分が芸能リポーターにでもなったような気がする。
好きな食べ物。よく観るテレビ番組。お気に入りのブランド。
新しい情報は右から左へと決まったように高橋へ。
わたしはあと少しでエミちゃん博士になるところだった。
クラスが違うから簡単には話し掛けられない っていうのはただの甘ったれた言い訳で、高橋は、中学からの腐れ縁のわたしを都合よく利用してるだけ。
卑怯者。
口の中で毒づいて。
わたしはまた、嘘を重ねる。
昔と変わらない調子で笑って。
「ま、頑張りなよ」
ふざけて肩をパンパン叩いたりしながら。
本当のことを知りたいなら、自分で話せばいい。
けど。
高橋は、知らない。
わたしが嘘をついてるっていうこと。
わたしの目の前にいるマヌケな男は、今でも、エミちゃんは数学が苦手で甘党で深夜の通販番組を観るのが好きでクレーンゲームのミッキー集めにはまってる と思ってる。
ばかみたい。
高橋も。
それから、わたしも。
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