90点の高い壁

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90点の高い壁

   暑い。  まだ8月になったばかり。  この先、ギラギラの1ヵ月がニヤケ顔で待ってると思うと。 「――……」  そう、言葉もない。  自動車学校の門を抜けて、バス停までの坂道を、靴の底を引き摺るようにして歩いていく。  今日で3回目。  またまた、不合格。  免許取るのも楽じゃねぇな……と、顔を上げると、目の前の国道をビュンビュン飛ばす、自動車、自動車、自動車。  あいつら、免許持ってんだよなぁ。  俺が、3回も落ちた筆記試験をパスして。  そう考えると、どの車に乗ってるのも、実はすげぇ奴に思えてくる。  信号待ちで鼻毛チェックする兄ちゃんや、神経質そうなスダレハゲのオッサン、頭悪そうな姉ちゃんまでが、みんな、俺よりはすげぇ訳だ。  2択問題だからっていって、正解率9割を求めるのは酷だろ。  って文句も、言えやしない。  これだけの人等が、実際、受かってるんだから、多分、落ちる方が悪いんだろ。  毎回の試験料だって安くないし、次こそ……と、横断歩道を渡りながら決意する。  俺がもたもたしてる間に、1ヵ月切りかけてる。 「夏休み中に免許取れたら、行ってもいいよ、海」  ピンクの口唇を悪戯っぽく尖らせて、簡単に、俺の心を鷲掴む。  どうせ、2人きりじゃないだろうけど。  とにかく、この為だけに、何とか頑張る。  2人でも4人でも、10人と一緒でも、行けないより悪いことはない。  折角のチャンス。  生欠伸を噛み殺して、家に帰ったら早速、また来週に向けて勉強してやる。  海のために。  青春のためだけに。  
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