天国と地獄

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  「数学はね───、一夜漬けで公式覚えても難しいよね」  ははは、って爽やかに笑う先輩に、こんなドキドキしちゃって、ごめんなさい。  わたしの目に映る先輩の口唇の端に、チョコが。  口 唇 に 。 「あ、あはは、で、ですよねぇ」  変に作り笑いを浮かべる鼻の頭に、汗。  まだ5月のくせに暑いから?  ノン。  色ボケしてるからです。  あんな「優しくて」「爽やかで」「カッコイイ」先輩の口唇に 興奮してるからです。  まだ、手もつないでないのに。 「でも……明日の3教科は、絶対、頑張ります」  血が昇っちゃって、何言ってるんだか。  全然、でも、じゃないじゃん。  でも。  先輩は、わたしの目をじっと見て、 「うん、僕も頑張ります」 って、チョコのついた口唇の間から、白い歯を覗かせて笑った。  それから、極め付けの一言。 「彼女と遊んでて成績下がった って、絶対、文句言われたくないしね」  あぁ───  突っ走っちゃって、本当にごめんなさい───……  やっと我に返って、先輩の口唇に集中するのをやめた時。 「クリーム、付いてるよ」  わたしの口唇に触れたのは、少しひんやりとしてて、でも温かい、指。  先輩。  そろそろ、鼻血出そうです。  
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