天国と地獄 [先輩の場合]

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天国と地獄 [先輩の場合]

   キラキラと輝く春の太陽。  ぽかぽか陽気。  隣には可愛い彼女。  こんな幸せな日曜日が、もうすぐ終わる。  正確には、あと9時間後に。 「明日からテストだね」  舞い上がっちゃって、こんな話しか出来ない自分に呆れながら、2人で並んで買ったクレープを口に入れた。 「うわぁ、イヤなこと思い出させないでくださいよ───…」  そんな僕に、笑顔を浮かべて返してくれた彼女にほっと一息。  明日から中間テストの始まり始まり。  こんな時期に、デートさせちゃってよかったのかな、という不安は消えない。 「はぁ……遊んでおきながら言えたことじゃないですけど……赤点かも」  まだ、可愛い笑顔を保ってはいたけど、その言葉にドキッとした。  やっぱり軽率だったかな……。家で勉強したかったのかもしれない。  空気読まない男だと思われていたらどうしよう。 「先輩は明日、大丈夫……ですよねぇ」  そう言った後、慌てた様子で口にクレープを運ぶ姿が妙に可愛らしくて、 「うーん……まぁ、なんとかなるとは思うけど」  2口、3口と続けて生クリームをすくう姿を、目が合わないようにこっそり、盗み見ていた。  春休みに、彼女の方から告白してくれた時は、足が地についていることが不思議なくらいうれしかった。  こうやって、休みの日に会えるのが奇跡みたいで。  夢じゃないのかな なんて思ってみたり。 「とりあえず、一夜漬けででも頑張るかなぁ」  こんなこと考えてるって知られるわけにはいかなくて、慌てて笑顔を作った。  わざとらしい顔になってないか、かなり心配。  すぐ近くにいる人にここまでアガってるの、僕だけなんじゃないかなって、そんな気がする。 「わたしは一夜漬け、出来ないんですよね───…」  僕の他愛ない話からでも、ちゃんと広げてくれる言葉に、耳を澄まそうとした。  頭の中は、それどころじゃないっていうのに。  
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