天国と地獄 [先輩の場合]

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  「数学はね───、一夜漬けで公式覚えても難しいよね」  ははは、って笑いながら、こんなドキドキしちゃって、ごめんなさい。  僕の目に映る彼女の口唇の端に、クリームが。  口 唇 に 。 「あ、あはは、で、ですよねぇ」  急に、焦ったような声を出しながら、微妙に目線を外した彼女。  バレた?  知られたくない感情。  色ボケしてる僕。  こんな「明るくて」「無邪気で」「可愛い」彼女の口唇に 興奮してる僕。  まだ、手もつないでないのに。 「でも……明日の3教科は、絶対、頑張ります」  退かれたのかと、気が気じゃなかった。  まだ、笑ってくれてる。  よかった。  ホッ と、こっそり息を吐いて、 「うん、僕も頑張ります」 って、ドキドキし続けてる胸を何とか抑えつけた。  それから、必死で理性を引っ張ってきて、言葉を並べる。 「彼女と遊んでて成績下がった って、絶対、文句言われたくないしね」  って。  あぁ──……  微妙すぎ───……  勝手に盛り上がって嫌がられてないかとチラッと窺ったら、不意に、視線がぴったり合って。 「クリーム、付いてるよ」  思わず伸ばした指が触れたのは、少しひんやりとしてて、でも温かい、口唇。  ごめん。  我慢、出来ませんでした。  
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