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決選翌日
「あ、このトリュフ美味いよ」
机の上に広げた色とりどりの箱の中から摘み上げる、指差された一粒。
「これ買ったの、誰?」
口に入れると、ぶにゅっ と甘さ控えめのガナッシュが口の中に広がって。鼻の方にまで、ふわりと流れていくカカオの香り。
「あたしが買ったヤツだよ。
そんなに美味しい?」
えへへー、とえくぼを見せる安奈と。2つ目のトリュフを頬張る裕美と。無口でブラウニーを食べ続ける友香里。
それから、まだ、もごもご、舌の上のチョコレートを堪能するわたし。
目の前にある包装紙とリボンの小山と、わたし達のお腹に消えていくチョコレート菓子は、負け戦の残骸。
昨日の朝、4人で喝を入れ合ったものの。
わたし達の中から、勝者はあがらなかった。
安奈が告白するつもりだった先輩には彼女がいて。
裕美は後輩に先を越され。
友香里は丁重にお断わりされ。
わたしは、最後まで渡す勇気が出ず仕舞で。
「お断わりはいいけどさ。
受け取ってくれるくらい、してくれたらいいのにね」
紅茶で喉を潤した友香里が、ぽつりと一言。
「分かる。ほんと、それ」
うん、うん と頷いたのは、安奈。
2人は当たって砕けた派で。わたしと裕美は、苦笑いを浮かべ合う。
わたしは、当たってないし砕けてもないけど、それは、意気地がなかっただけで。
遠くから見てるだけの恋が、たった1日の魔法で叶うはず、ない。
「とりあえず分かったことは」
4等分に切り分けたハート型のガトーショコラに銀色のフォークを突き刺しながら、裕美が一言。
「バレンタインだから って、告白の成功率が上がるわけじゃないんだよね」
わたし達は何度目かの深い納得をして。
お役御免になった最終兵器達の処分に、精を出す。
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