決選翌日

1/1
前へ
/24ページ
次へ

決選翌日

「あ、このトリュフ美味いよ」  机の上に広げた色とりどりの箱の中から摘み上げる、指差された一粒。 「これ買ったの、誰?」  口に入れると、ぶにゅっ と甘さ控えめのガナッシュが口の中に広がって。鼻の方にまで、ふわりと流れていくカカオの香り。 「あたしが買ったヤツだよ。  そんなに美味しい?」  えへへー、とえくぼを見せる安奈と。2つ目のトリュフを頬張る裕美と。無口でブラウニーを食べ続ける友香里。  それから、まだ、もごもご、舌の上のチョコレートを堪能するわたし。  目の前にある包装紙とリボンの小山と、わたし達のお腹に消えていくチョコレート菓子は、負け戦の残骸。  昨日の朝、4人で喝を入れ合ったものの。  わたし達の中から、勝者はあがらなかった。  安奈が告白するつもりだった先輩には彼女がいて。  裕美は後輩に先を越され。  友香里は丁重にお断わりされ。  わたしは、最後まで渡す勇気が出ず仕舞で。 「お断わりはいいけどさ。  受け取ってくれるくらい、してくれたらいいのにね」  紅茶で喉を潤した友香里が、ぽつりと一言。 「分かる。ほんと、それ」  うん、うん と頷いたのは、安奈。  2人は当たって砕けた派で。わたしと裕美は、苦笑いを浮かべ合う。  わたしは、当たってないし砕けてもないけど、それは、意気地がなかっただけで。  遠くから見てるだけの恋が、たった1日の魔法で叶うはず、ない。 「とりあえず分かったことは」  4等分に切り分けたハート型のガトーショコラに銀色のフォークを突き刺しながら、裕美が一言。 「バレンタインだから って、告白の成功率が上がるわけじゃないんだよね」  わたし達は何度目かの深い納得をして。  お役御免になった最終兵器達の処分に、精を出す。  
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加