のぞみ に向かって

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  「先輩、大学行っても、陸上続けるん?」  餞別に、と奢った缶コーヒーのお礼に奢ってもらったオレンジジュースの缶が、手のひらの中で、どんどん温くなる。  電車。早く来ればいい。  そうじゃないなら、来なければいい。もう、ずっと。 「多分、やる。  けど、芽ぇ出んじゃろーね」  先輩が、バッグに投げ入れた缶コーヒーは。  まだ、冷たいんだろうか。 「先輩から陸上取ったら、何も残らんじゃないですか」  先輩がいないと、寂しい。  先輩、帰ってくるんですか。  先輩が向こうに行っても、電話していいですか。メールしても、いいですか。  本当に言いたいこと。  本当に訊きたいこと。  大事に思うことは、わたしと先輩の間をぷかぷか浮かんだまま。  電車を待つ。  先輩を連れていく、緑色の鈍行電車。  わたしを置いていく、2両編成の、おんぼろ電車。  
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