板チョコレートの甘味に寄せて

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板チョコレートの甘味に寄せて

  「えぇと。学校にお菓子類など持ち込まないように」とか何とか言ってた先生も、持ち物検査なんていう野暮なことはしない、今日、この日。  メッセージを一緒に入れようか、それとも、名前だけにしようか、ううん、余計なものは入れないようにしようか。  近付く期末試験の勉強より頭を悩ませたのは、昨晩のこと。  カバンの中で、カラカラと転がる赤い包装紙で飾られた箱を想いながら。  朝イチよりは、昼休憩。昼休憩よりは、放課後。  なんて渡すタイミングのことがぐるぐると頭の中で回転してるのを、他人事みたいに眺めてる感覚。  ターゲットはクラスメイト。  きっと、わたしのこと、箸にも棒にもかからない程度としか見てない に違いない。  わたしが、2000円のトリュフをカバンに隠しながらドキドキしてるなんて。知らない に決まってる。  隣に座ってるのに。  この緊張が伝わらないのが、むしろ、不思議。  予鈴が鳴って、教室中に散らばってたみんなが、ちらほらと席に戻っていく中。  ふわり。  甘い香り。  匂いの発生源は、なんと、隣の席。その手には、赤い箱のチョコレート。 「弁当のパン買いに行ったら、そこのおばちゃんに貰ってさ」  そう言いながら、銀色の包みを破って、パキンとチョコを折る。 「ふぅん……そうなの……」  彼の手元を見つめながら。  わたしも購買のおばさんだったらよかったのに。  そう、突拍子もないことを心の中でぼやいていたら。 「何見てんだ……あぁ、分かった、心配すんなって」  1人で勝手に納得して、うんうん頷いて。 「ほら、ちょっとやるよ」  深い焦げ茶色のかけらをくわえながら。わたしへと差し出される、包み紙。 「あー、ありがと……」  チョコをあげたい人から貰う、チョコ。  手のひらの熱で、受け取った途端に溶けるかと思ったけど、そんなことはなく。  とりあえず、見つめてみる。 「早く食えよ、先生来るぞ」  コツン、と肘で小突かれて。  その瞬間、強いチョコの匂いに包まれる。  今にもとろけそうなのは、手の中のかけらじゃなくて。  ぱくん。  口中に広がる甘ったるさに。  今日中に奮い立たせなくちゃいけない勇気をもらったような気がした。  
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