ハートブレイカー

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ハートブレイカー

   荒木が、フラれた。  いつもバカやってて、明るいだけが取り柄のくせに。  椅子の上で、膝、抱え込んで。  顔なんか、伏せちゃって。 「……いつまで、そんな格好してるつもり?」  友達たちだって、一通り慰めの言葉を掛け合って、もう帰ってしまった。  友達が冷たいわけじゃなく。  40分も、こうして粘ってる荒木が悪い。 「…………」  顔も上げない荒木の面倒見るのを任されたのは、提出しなくちゃいけない日誌があったからで。  好きで、こうやって教室に残ってるんじゃない。  話し掛けても返事もしない男に、どうやったら、心から同情出来るっていうのか。 「いい加減、帰ろうよ。  暗くなってきたし」  職員室に寄るっていう気が重い作業が残ってる、わたしの気持ちだって、少しは分かってほしいよ。  そういうことを考えてたら。 「……いいよ、気にしなくて。  先、帰って」  ぼそり。  ガラガラ声。投げ捨てるような言い方。 「帰って、って」  そんな風に言われても。  はい、そうですか なんて、立ち去りにくい。  窓の外。駅前の高層ビルとかの向こうに、日が沈む。  オレンジ色に染まる街並み。  春だけど。夕方になると肌寒いなぁ。  ガタン。  机の下に戻していた椅子を引いて。  どかり、座り直した。  毒を食らわば、皿まで――は、ちょっと違うかもしれないけど。  こうなったら、付き合ってやろうじゃない。  荒木が口を開かないから、わたしも無言のまま。  過ぎていく時間に、そのままを任よう っていう気分。  相変わらず、伏せたまま。  こっちを向けたままのつむじをぼんやり見つめてると。  普段とは全然違う、本気でへこんでる荒木が新鮮で。  バカなのに。  こんなになるくらい、真面目に恋愛とかしてたのかなって。  なんとなく、羨ましいな とか思ってしまった。  そこまで真剣に落ち込める荒木や、思われてる女の子が、っていうんじゃなくて。  なんとなく。  こういうこと、全部が。  
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