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カウントダウン
「初詣、さ。
一緒に行かない?」って。
調子に乗って……ダメ元で誘ってみたけど。
まさか、本当に来てもらえるとは思わなかったから。
こういう場合、露店とかおみくじとか、全部おごった方がいいのかな、とか。
せこい、細かいことをこそこそ考えてる自分が、ちょっと嫌。
どーんと構えていられるような、器のでっかい人でありたいとは思うんだけど。
厳しい、理想と現実。
「あの、さ、寒くない?」
寒い、と言われたところで、さっと貸してあげられるような上着もマフラーも手袋もカイロも持ってないくせに。
3回目の、質問。
だって。
すぐ隣に。
もうすぐ新しい年になるっていう、この瞬間に、隣にいるってことが。すごい。
絶対、ありえない。
頬っぺたつねって、じわじわ痛いのが信じられないくらい、すごいこと。
「んー、やっぱり夜だし、ちょっと寒いよね」
白い息を吐きながら、鼻の頭をちょこんと赤くして笑う彼女に、マジで心臓掴まれる。
「甘酒とか飲めれば、少しは違うんだろうけど。
酒粕……かな、あの味が苦手だから飲めないんだよね」
除夜の鐘もつき終わっていて。
境内に通じる階段には、長蛇の列。
そろそろ、カウントダウン。
「あっ、俺、俺も!
なんか、うべっ、て味がして苦手なんだー」
さっき、財布から取り出した5円玉を握り締めて。
力一杯、答える。
彼女のことが、好き。超好き。
会うたびに、可愛いと思ってるし。
ぎゅうっとしたい、とか。出来るものなら、キス、とかもしたい、と思ってるけど。
とりあえず、どうすればいいのかが、分かってない、俺。
するなら今だろ! というタイミングが、刻一刻と迫ってきてる。
年越しに、こんなに緊張するのは初めて。
「そう、そう!
なんか、広がるよね。独特の味っていうか」
彼女の、鼻も、耳も、口唇も。
胸の前で組んでる両手の指先も、真っ赤っ赤。
あっためてあげたい……けど、やっぱり、どうすればいいのかが分かってない、俺。
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