アンテナ

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アンテナ

   わたしじゃない。わたしのことを言ってるんじゃない。  分かっているのに、振り返りそうになってしまう。 「××、可愛くね?」  その声に、ドキッとする。  よく聞き取れなかった部分。  誰の名前?  もう1回、言って。  わたしが掛けられる精一杯の言葉といえば。 「おはよう」と「バイバイ」  だから。 「え? 何の話?」  そういって、軽々しく訊いてみる、なんて。  夢のまた夢。  同じクラスなのに。  席だって、こんなに近いのに。  こっそり、聞き耳を立てて。  勝手にドキドキしてる、情けないわたし。  次の授業の時に提出しなきゃいけない課題をやってきてないこと。  お昼は学食に行く予定だっていうこと。  昨日借りてきたDVDのタイトル。  何気ないことでも、彼の声が告げたことなら、耳が勝手にキャッチしてる。  それなのに。  1番重要なところだけ、割と聞き逃しがち。  わたしのことじゃない。  分かってる、分かってるから。  何を可愛いって言ったのか。  それだけ、知りたい。  
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