初恋の終わり

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初恋の終わり

   嫌いにならなくては。  僕は、先輩のことを嫌いにならなくてはいけない。  先輩の顔にはほくろが多い。  肌が白いだけに、黒かったり茶色かったりの点々は結構目立つ。  覚えているだけで、目元に1つ、右頬に1つ、左頬には2つ、口唇の上に1つ、顎に1つ。  ほくろだらけだ。  そばかすじゃなく。ほくろ。  ボールペンの先で ちょん と描いた点より、先輩のほくろは大きい。  それなりに自己主張をしてる、立派なほくろだ。  僕の顔にも、ぽつんと1つ、黒いほくろがあるけれど。  先輩と同じ位置にあるけれど。  先輩と同じ位置にほくろを持っている人物の数も、きっと多いはずだ。  だって、ほくろだらけなんだから。  僕は、誰にも見られてはない のに、にやりと笑った。  いや、見られてないからこそ。  よし。この調子。  いい具合だぞ。  自分自身を励ますように、頭に浮かぶ先輩の顔を、姿を、全否定しようと。  続けて、頑張ってみる。  先輩は、生徒会役員のなんとかという男を好きで。  僕のことは全く眼中になく。  彼のことで、頬を染めるのだ。短い会話を交わした、とか。  挨拶をした、とか。  目が合った、とかで。  先輩は幸せそうに微笑む。僕の目の前で。  だから、僕は間違っても、先輩の目元のほくろがチャーミングだ とか 口元のほくろが色っぽい だなんて、思ってはいけない。  先輩は、ほくろが多い。  だから、素敵じゃない。  素敵だとは思えない。  僕は、嫌いにならなくてはいけないのだ。  
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