君の夢

1/1
前へ
/34ページ
次へ

君の夢

   今日もまた、目が覚めた。  当たり前に鳴り響く目覚まし時計を強く叩いて、あくびを1つ。  夢を見たな、と。  ぼやけそうになる輪郭を、一生懸命、引き寄せる。  慎吾がいた。  白が基調の知らないカフェ。おしゃれなテラス。  白いテーブルに肘を突いて、真っ白のカップを手に。  あの頃のまま、笑っていた。  わたしは、慎吾のちょうど向かいに座っていて。  懐かしさなんて、全然感じてない様子で、一緒に笑っていた。  今はもう、傍にはいない。  それを、知らない。  夢の中のわたしは、慎吾に「お前なんか知らない」「どっか行っちゃえ」なんて言ってしまったことを、知らない。  慎吾は、本当にどこかへ行ってしまった。  わたしの知らないところへ、行ってしまった。  わたしの傍にはいない。  いなくなってしまってからは、どんなに懐かしんでも届かなくて。  いくら望んでも、願いは叶わなかった。  だからわたしは、夢を見る。  都合のいい夢。  ほにゃほにゃ微笑んで、わたしの頬を撫でてくれる慎吾のこと。    
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加