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黒いシーツ
「恒ちゃんの布団って、いつも柔らかいよね」
掛け布団をその体に巻き込んで、彼女が笑う。
いつもと同じように。
「2週に1回は干してるからね」
僕は、そう答えながらベッドの脇に腰を下ろして、すっかり温くなった烏龍茶のペットボトルに手を伸ばした。
布団の柔らかさも、烏龍茶の絶妙に気持ち悪い温度の上がり具合も、本当は関係ないのに。
彼女は布団を誉め、僕はお茶を飲む。
「恒ちゃんの匂いがする―――」
なんて言いながら。
彼女は僕の布団に顔を押しつけて。
僕の匂いを吸い取る代わりに、いちごの果実に似た香りを押しつけていく。
今日の夜。
僕がこの布団に丸まることを分かっているのか、いないのか。
僕が君の甘い匂いに包まれることを知っているのか、いないのか。
あぁ、僕には分からない。
布団。
僕は、布団になりたい。のかもしれない。
何も考えず、されるがまま、その場に手足を広げているだけの存在に。
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