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リアリスト
本気で。心の底から思っているんだとしたら。
梢君は、相当頭が悪いっていうことになる。
偶然、書店やレストランでばったり会ったことを「奇跡」だと言ったり。
生協で同じジュースを買った程度のことで「運命」だと繰り返したり。
何でも、大袈裟すぎる。
私も梢君も、行動範囲がほぼ同じなんだから、出先で顔を合わせたりしてもそんなに不思議じゃないし。
100も200も種類があるわけでもないジュースの中から、新発売の物を選んだ人は私たち2人だけじゃないのに。
そもそも。
初めて会った時から、梢君は、少しおかしかった。
1人で勝手に盛り上がって口癖の「運命」を連発して。
それには私だけじゃなく、周囲も退いていた。
変に振ったりしたら刺されたりするんじゃないか、って心配も、友人たちから何度もされたくらいだから。
それからずっと、梢君は変わっていない。
後をつけたり、待ち伏せ、無言電話なんかをされたことはなく。
口先でだけ、騒ぐ。
雲一つない空は、私と梢君がばったり会わなくても、すっきりと青いし。
花壇のバラの花は、私と梢君がばったり会わなくても、5月になれば綺麗に咲く。
そんなことは当たり前なのに。
きっと、梢君の頭の中は、どうかしてるんだろう。
私はそんなことを思いながら。
どうかしてしまっている彼にうんざりしながら。
「これはもう、運命だね。
神様が、恋に落ちちゃいなさい って言ってるようなもんだよ」
そう言うために、ふにゃふにゃと動く梢君の口唇を見つめて。
小さなため息をつく。
ただ一言。
「奇跡」や「運命」なんかを取り除いて。
好きです って言ってくれればいいのに。
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