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「な!?」
慌てて振り払うと、男はヘラヘラと笑っていた。ボサボサの長めの髪に甚平、下駄。一昔も二昔も前の人のような風貌で。
とても怪しい人だった。
「ん~やっぱり最近の高校生は僕達中年には厳しいねぇ~」
「そりゃこんな夜中に背後から触られたら振り払うだろ?」
「こんな夜中に出歩くのも悪いでしょ?」
ハッと失笑する男。
まぁ、それもそうだよな。
相変わらず男はヘラヘラと笑うのを止めない。酔っ払っているようにも見えるが酒の臭いはしない。
素で、こんな人なのか。
「あぁ~まずは警戒を解くのが先かな? 僕はこの学校の生徒指導員だからねぇ~?」
「……そうは見えないけど」
「よく言われる」
男は頭をぼりぼりと掻きながら言った。
「僕の名前は九十九 空」
「きゅうじゅうきゅう くう?」
神方が首を傾げた。
いやいや口頭なのにどうやったら間違えんだよ。
「九十九 空(つくも そら)だよ。まぁ九十九先生でも、そら先生でもなんでも好きなように呼べばいいよ」
じゃあ、と神方の口を開いた。
「九十九先生、私達はやっぱり何らかの処罰を受けるのですか?」
「ん~神方ちゃんだったかな? 美人でいやらしい優等生の君が何をするつもりだったかによって返事は変わるけどなぁ~?」先生、いやらしいはセクハラで、関係ないと思います。
「校門の前で漫才のゲリラライブをやってました」
なんだその言い訳!通じるわけないだろ!
「なるほど~」
通じた!? ちょろいなこの先生!
「まぁ近所迷惑にならない程度にしなよ? 君達の声、響いてたしねぇ~」
「それはすみません」
主に僕の声だ。
「じゃ~観客もいないことだし切り上げて帰ることをオススメするよ。処罰も注意勧告だけにしといてあげるし」
そう言うと九十九先生は校門の横にある扉から学校の中へ入っていった――というより帰っていったといった感じか。
カランコロンと下駄の音が響く。校門の前で僕と神方の二人が残された。
「よし、じゃあ帰るか」
「え?」
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