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静かに、それでも降り積もらない程の量で空から舞い散る結晶が町の明かりを反射し、輝いている。
冬の代名詞と言えるその気候現象も、温暖化が進んだ今日ではすっかりこの町においても珍しいモノとなっていた。
それだからか、彼が擦れ違った男女はいつも以上に大きなはしゃぎ声をあげている。
いや、その理由は天から降り注ぐこの白く冷たいモノ--粉雪が直接のそれではない。
寧ろあくまでも今日という日が恋人達を騒がせる性質を持っていて、雪はそれを後押ししているに過ぎない。
駅前の通りでは赤い帽子と服、そしてその下はミニスカートという如何にも寒そうな、そしてアンバランスな格好をした女性が見て分かる程の愛想笑いを浮かべながら会社帰りのサラリーマンにティッシュを配っている。
商店街のおもちゃ屋ではまだ幼い子がショーウィンドウのロボットのフィギュアを指差しながら両親にわめき立てている。
彼は徐に少し古ぼけたグレーのズボンのポケット--今日は『仕事』は休みだから、彼もそんなラフな格好をしていた--に手を突っ込み、携帯電話を取り出した。
少しかじかむ指をさすりながらディスプレイを開く。
「新着メール一件」の見出しの上には、青く、無愛想な字体で、
「12/24(土)」
とだけ記されてあった。
「クリスマスイブ……ねえ」
短く独り言を呟くと、彼こと飛原鳳我(トビハラ ホウガ)は同じく古い深紅のジャケット--ブランド名は御大層にも『クリムゾン』というらしい。だが彼の仲間の一人曰く「安物」だそうだ--の内ポケットから煙草とライターを取り出し、火のついたそれを口にくわえ込んだ。
「『パーティーいつでも出来るよ! 早く一緒に帰って来てね!!』……まったく、ちょい前にハロウィンやったんだけどなあ……何で弟の彼女はここまでミーハーなのかね」
言葉とは裏腹に少しだけ、ほんの少しだけ満更でもないような表情を浮かべると、鳳我は紫煙を吐き出しつつ、閉じた携帯電話をポケットに押し込み、再び歩き出した。
--彼は否定しているが、周りの言う「彼女」を迎えに。
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