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『其の火付けは我が戦友にしてそなたの父の形見にて候。名は最後まで聞くことかなわず。されど師は彼を「アポロン」と呼びたり。
其の十字架は同じく戦友にして美月の亡母、ナギ・ムーンライトの形見にて候。
師が託されし友の形見はそれらのみ。これを遺憾に思い候』
「……!」
ライターと十字架、そして遺言書を交互に見返す。
あの悲劇以来、絶えたと思われた親の名残。それは思わぬ形で彼の、そして彼女の眼前に現れた。
--父さん、と心中で短く呟きながら、震える手で続きを開く。遺言書といっても、長さはそうない。もう終わりも近い。
だが、その内容は更に彼を驚嘆させるには十分だった。
『次に、この堂にある蔵を開けるべし。
その中の物を以て、そなたを「赫炎流」の後継者と証するものにて候。尚、他の物も仲間達に等しく分け与うべし』
「……後継者!? 俺が!?」
思わず高い声があがる。寝耳に水とはよく言うが、それの衝撃はある意味父の形見より大きかった。
まだ自分は幼い。この国の法律では選挙権すらない。そんな自分が出し抜けに一流派の長に指名されたのだから。
しかし、それに何か言葉を付けるにしても、当の師はもはやこの世の人ではない。
なれば、受け入れるしかない--頭だけでその事実を解釈しながら、鳳我は立ち上がり、どこかふらついた足取りで本堂の端にある蔵の前に立ち、一瞬ためらうように唾を飲むと、
「……ッ!」
思い切って戸に手をかけ、勢いよく横に開いた。
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