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尊敬、恩義、憧憬、猜疑、憎悪そして困惑。
古くから持っていた。そして新たに生まれた感情の狭間で、鳳我はただ揺れていた。
だが、やがて時は経ち、日は沈む。いつのまにか宵闇はその濃さを増し、夜の帳(トバリ)も下りんとしていた。
「……」
その中で、鳳我は右手を漆箱の中のライターに伸ばす。
左手は親指と人差し指で遺言書を、されど皺が残らんばかりの力で握り締めていた。
右手の親指でライターの蓋を開け、ドラムを回し、火を点ける。闇の中に、彼の姿が陽炎のように浮かび上がった。
生きていた師としての最後の指示、それに従わんと--。
鳳我は火を遺言書へと向けた。
遺言書は忽ち燃え上がる。鳳我が左手を開くと、ふらりと火の粉を散らしながら宙を舞い、傍らにあった小さな香炉の中に落ちた。
その中で遺言書が灰になっていく様を、鳳我はじっと見つめている。
その表情は、形容のしようがない程に、暗かった。
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