A Crimson Kid

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「腕一本で済むと思うなよ。テメエみてえなくそ野郎は、まず集団でボコって這いつくばらせて……」 尚も頭目はまくし立て続ける。先程彼の述べた人数差と武器の装備。確かに条件だけを述べれば、彼らが圧倒的に有利なことは素人でもわかる。 だが、その有利は二つの要素を生む。 --即ち、余裕と油断である。 「……んで、最後はドタマをカチ割る。へへへ。聞くだけでゾッとするだろ? なあおい、何か言ってみろよ。『助けてママー!』とか……」 彼の長演説も、それらの要素からのモノだろう。だが、だの喧嘩自慢相手なら、この油断が生むマイナスファクターも、十分に有利で埋め合わせが効く。 --だが、彼らの対峙する少年は、ただのストリートファイターではない。 狩人であり、戦の武術家であり、そして辻斬り--闇の闘争も、知っている男なのだ。 「へっ……ビビって声も出せねえか、ザマねえな。はははは」 一向に口を開かない少年。それを恐れと認め、頭目は彼を嘲笑する。 --その時、鳳我の体の輪郭が、彼の視界から消失した。 --それと同時に、彼はその意識をも失っていた。 「え……?」 取り巻きの少年達も何が起こったかわからないといったような表情を浮かべている。 まるでスローモーション映像のように頭目が鼻から朱い水道を流し、辻斬りの前に俯せに倒れる。 手放したバットが悲鳴のような金属音を鳴らして転がった。 言葉にすれば、鳳我は頭目の元に近づき、その顎目掛けて膝を跳ね上げた--それだけである。 だが、それを何人にもに囲まれた状況で何の前触れもなく、誰からも悟られるより早くに行い、そしてそれだけで敵の意識を脳から弾き出した--それが如何に彼らの常識の範疇を越えていたかは、その呆けたような表情を見れば、一目瞭然出来よう。 「……」 そしてその異業を成し遂げた少年は、一瞬残された連中の表情--呆然、恐怖、それらに彩られていた--を見渡すと、 「……チッ」 さっきと同じような舌打ちをあげ、脇目も振らずに人数の少ない方へと駆け出した。 「ひ……ひィッ!」 視線の合った少年の瞳が恐怖の色に染まる。 だが、鳳我はその脇を紅蓮のジャケットを翻しつつ、走り去っていた。
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