A Crimson Kid

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やがて、鳳我の口から紫煙がゆるゆると漏れ出す。 「百害あって一利なし」と呼ばれて久しいが、煙草の数少ない効用として、深呼吸による精神安定があるという眉唾モノの説がある。 だが、空気を煙ごと肺一杯に溜め、そして吐き出した彼の表情は、一向に冴えない。 更に余計な一言を加えるなら、それでは己の精神を紛らすには足りないからこそ、彼はこのような喧嘩に身を落としているのだ。 「……チッ」 まるで苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、鳳我は茶色の唾を吐くと、ふらりと歩き出す。 ネオンによって彩られた、決して美しいとは言えない光の中へ。 何かを求めるワケでもなく、何かを望むワケでもなく。 ただ何かから逃げるように。伸びる己の影に背を向け、ただ進む。 ただ人工の光に霞みつつある月だけが、彼を見つめている。 飛原鳳我--彼が己が宿命、そして絆と向かい合うこととなった『あの日』。 その日までは、暫くの時を要することになる。 A Crimson Kid 完
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