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「トビハラ・ホウガ……?」
「うむ。お主の名前じゃ。尤もお主の生名ではないのだが……名前すら思い出せず、その手がかりもないなら、作り出せば良いだけのこと」
返事をすることもなく、新しく名前を与えられた少年--飛原鳳我は俯く。傍には弟--龍司が佇んでいる。
マスターに拾われた彼は他の四人と共に、海を越え、東の地--日本のとある山奥の古寺にいた。
だが初めて弟に彼が再会した時でも、彼はこれといった反応はなかった。
過酷な放浪からその記憶の殆どは擦り減っていたし、顔立ちも似ていない。そして何よりも互いに兄弟という実感が殆どなかった。
どちらかが「兄さん」ないしは「弟よ」などと声をかければ状況は違ったのかも知れないが、そこまでの情に浸れる程の余裕も二人には持ち合わせていなかった。
それを察していたのか、マスターは二人に兄弟という事実を知らせ、最低限のそれにもとる扱いこそしたものの、それ以上のことについては極力押し付けようとはしなかった。
「……やはり、まだ実感は沸かぬか……それも良い。ただ、いずれ名というモノが如何に重要であるか……気付くであろう。そして、いつの日かお主らの真の名がわかる日も来るやも知れぬ。その時に如何にするかも……お主ら次第よ」
顎の長く、白い髭を摩りながらマスターは呟く。
「なあ、マスター」
だが、突如としてかけられた言葉にその動作は中断する。
「俺様はやっぱ反対だぜ! こんな軟弱ヤローを仲間にするだなんてよ! 今だって名前を貰っておきながら全くの無反応じゃねえか!」
「アニキの言う通りだぜ。こんな足手まといよかオレ達の方がよっぽど頼りになンだろ! なァ?」
声の主は部屋の隅で腕や足を組んで椅子に座っていた。巨漢と痩身の男二人組--破牙兄弟だった。
「獅堂、蛟……ふむ。鳳我、龍司……お主らはどう思う?」
「……」
「別に。こいつらがどう思ってようが知るかよ。……勝手に言ってろ」
終始の無言、そしてぼそりと呟いた最後の一言。それが彼らの導火線に火を点けた。
「アア!? 鳳我テメエ何名前貰ったからって良い気になってんだコラア!」
「オレはそっちのヤロウの方がムカつくぜ……ひょっとしてオレ達にビビってる? ヒャッハハハハ!」
椅子を蹴倒し、破牙兄弟は飛原兄弟に詰め寄る。特に獅堂と鳳我に至っては今にも掴み合わんとしていた。
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