A Crimson Kid

9/18

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
『我が愛弟子、飛原鳳我殿。 そなたがこの書を目にする時、師は既にこの世の者でなきもと存じあげ候』 初めの一文、その瞬間から鳳我の手は震え始めていた。 だが、目はせわしなく動き、その続きを知ろうとする。 『そなたとその弟、そして胞たち、皆がこのような苦境に陥りしは師が責任にて候。師が些か早く、我らが宿敵--メフィストフェレスの現れを知り、これを止むれば、此れ程の惨事にはならざりしか』 「メフィストフェレス……!」 仇敵の名を声に出す鳳我の瞳が憎悪にて血走る。食い入るように、彼は続きを見た。 『されどそなたらの置かれし宿命、最早逃るること叶わぬものとなりし候。我が弟子よ。血を与えし父母を怨むことなかれ。宿命を導きし師を許せ。されどその運命を憎むことなかれ。それこそ彼奴の思う壺にて候』 --憎むな。そんなこと言われても--!! 憎しみに、困惑の色が宿った。それでも眼は止まらない。 『さて、そろそろ本題へと筆を参らせ候。この書状の横に漆塗りの箱がありし候。その中をぞ改めるべし』 「……?」 そういえば、と鳳我は箱に視線を向ける。 その箱は漆の下地に金色に輝く鳳凰の飛び立つ絵が描かれていた。 遺言書の存在感に気付かなかったが、その意匠は何かしら高尚なモノであることは少なくとも高貴な生まれとは言えない彼でも理解出来た。 まるで何か、伝説の秘宝みたいなモノを封印したような--そんなやや安直な感想を浮かべつつ、鳳我は箱の蓋に手をかけた。 ぱかりとした音もなく、箱は開かれ、その中身は薄い闇へと晒された。 「……?」 中に入っていたのは僅かに思い浮かべていたような財宝ではなかった。 それは二つあった。 太陽神アポロンをあしらった彫刻のなされた古びたオイルライター、そして同じく古びては見えたものの錆などは全く見当たらない銀製の質素な十字架のペンダント。それだけだった。 「……何だ、これ」 一見するとただのガラクタ。それを託された事実を訝しみながら鳳我は遺言書の続きに目を通す。 それが、この二つを彼にとって揺るぎない価値あるモノとした。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加