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「だって針金で鍵を開けるなんて、憶える必要ないだろう?」
「そうでも無いよ。憶えておけば、鍵を無くしたとき便利じゃない?それに入れる部屋や、開けられる引き出しとか増えるし」
「だぁからぁ――」
大きく溜息を吐き、響きが続ける。
「それって、普通に暮らすのには必要ないだろ?もう回収屋やめるんだろ?捜していたお父さんの遺品は見つかったんだし」
ソファーに座っていた響は、立ち上がって壁に飾られた人魚の絵を指さした。
そう――
未央は、世間を騒がせている回収屋ティンク。
不当に奪われた物や盗まれた物を取り返したい人達から依頼を受けて、品物を回収する。
自分の父の遺品である絵を捜すために、その仕事を続けて来た。
品物を回収された人の多くは、警察に届ける事をしない。
その品が既にその人にとってはどうでも良い物になっていて何が無くなったか分からなかったり、他人から奪った物であるため、届けると自分の罪を暴露することになるからというのが理由だ。
稀に届ける者がいても『自力救済の禁止』―― 簡単に言えば、ものを奪われても自分で取り返してはいけないという法に触れるため、依頼人は知らぬ存ぜぬで貫き通す。
従って、その存在は分かってはいるものの、ティンクにまで警察の手が及ぶことは無かった。
「そりゃあ私の取り返したい物は帰って来たけど、まだまだ依頼がいっぱいあるし」
「そんな事、おまえには関係ないじゃん。千聖もなんとか言えよ」
応援が欲しくて、ソファーに凭れている千聖に目をやる。
千聖は響をちらりと見てから、フゥッと煙を吐いた。
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