―後編―

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次の私の出勤日、朝霞は現れなかった。その次も。もう来ないのだろうか。完全に嫌われてしまった? もう二度と会えない? さらに一週間後の昼下がり、私は朝霞の名刺にあった会社の前に立っていた。 どうしても、もう一度、朝霞に会いたかった。こんな気持ちは初めてだった。あの真っすぐで素直な瞳に見つめられたい。温かな腕で抱かれたい。このまま会えなくなるなんて絶対にイヤだった。 なるべく地味な服を選んできたつもりだった。だけど、昼間の大会社の受付で、やはり私の姿は浮いていた。ロビーのテーブルで打ち合わせらしい人たちが、ちらちらと私を見ている。 受付嬢に呼び出しを頼み、不安な気持ちで待つと、ほどなく朝霞が現れた。 「何か用か?」 冷たい声。私の体が震える。舌が痺れたようになって声が出ない。
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