―前編―

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「マリーちゃん、ご指名入ってるから急いで」 「はい」 マリーというのは私の源氏名だ。自分ではけっこう気に入っている。 「2番テーブル、よろしく。開店してからずっとマリーちゃん待ちしてるから」 「何それ。誰よ?」 「先週、マリーちゃんがついた客だよ。あれから毎日来てマリーちゃんはいないのかって。よっぽど気に入ったみたいだな」 「ふーん。私の出勤日は火・木・金だって教えてあげなかったの? 意地悪ね」 先週の客と言われても思い出せない。とりあえず営業スマイルでテーブルに向かうと、スーツ姿の若い男がマリーを認めて顔を輝かせるのが見えた。 (ああ、あの人か) 「いらっしゃーい。また来てくれたのね、嬉しいわ」 笑顔で男の隣に腰掛けながら、頭の中で名前を捜す。
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