ゆくりかなる東風

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   ―― 一人だと、思いたくなかった。  見知らぬ地に、ぽつんと放り出されたという事実。突き立てられた孤独という現実。  不安で不安で、悲鳴を上げそうになったときに出会えた『梓兄ぃ』に心が緩まったというのに、見知らぬ人だということを受け入れたくなかった。  ――気がついてしまっていた時点で、認めてしまったも同然だったのだが。  虚勢を張って、梓兄ぃと呼ぶ愚かさ。  彼が迷惑しているのもお構いなしに、自分のためについて歩く傲慢さ。  だけどそうしないと、今にも崩れ落ちそうだったのだ。  ――“私”という存在は確かにあるのか、わからなくなった。  
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