Ⅰ 『穴』

2/5
前へ
/15ページ
次へ
 人生で初めて穴に落ちた。  しかもテレビのお笑い芸人が落ちるように、まん丸のマンホールの蓋をパカッと外したような穴に躊躇いもなくストンと落ちた。  毎日歩いている帰り道によもや穴が空いていようとは誰も思うまい。  更におかしなコトにこの穴、落ちても落ちても下がない。  最初は落ちていく感覚が恐ろしくてたまらなかったのに、段々と手を広げてスカイダイビングの真似事をする程に慣れた。  真っ暗だった周囲が、やがてミルク色のモヤモヤに変わる。 『アリス、手を仕舞わないとなくなっちゃうよ。』  モヤモヤの中から包み込むように響いてくる声に、慌てて広げていた手を引っ込め、気をつけの姿勢になる。  そういえば、なんだか青い色が白いモヤモヤの間から覗いている。  少しずつモヤモヤが晴れると目の前に一気に飛び込んできたのは一面の青空と森の緑。  私は穴に落ちた筈なのに、遥か上空から地面へと高速で落下していたのだ。 _
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加