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まさかと思い目線を落とすと、見覚えのある黄色い物体が、仁王立ちしてこちらを見上げている。
「っアイシさん!」
アイシさんは何も言わずに私に向かって小さく手招いた。
深夜ではあるけれど、あんな目立つ格好で見つかりはしないだろうか。
って私が言うのもなんだけど。
「………………」
考えた挙句、私はあるものを持って部屋を出た。
急いで飛び出して来た私を、無表情な虎はじっと見つめている。
「……なんでそんなもん被ってんだよ」
「……そっちこそ」
皮肉にも、タイガーマスクとジョッキーは夏以来の奇跡的な再会を遂げたのである。
久々に会えたのに、やっぱり私達はいつも通りの雰囲気で、それが余計に愛しく感じた。
辺りを見回しても、真夜中の静寂な住宅街には人一人見つからない。
ホッと胸を撫で下ろし、改めてアイシさんを見つめた。
「一人にさせて悪かったな」
聞きたくてしょうがなかった優しい声に、思わず感極まる。
「そんな、こちらこそ。……皆は大丈夫でしたか?」
「ああ。本当はすぐに迎えに行くつもりだったんだが、レイの奴、そんなことしたら余計お前が困るっつって止めやがってよ」
確かにあの状態で一緒にいることは無理だったと思う。
それに、おかげで由理や学校の皆と本当の意味で打ち解けることができた気がするから。
「それで、アメリカにはちゃんと行けるんですか?」
「ああ。……予定通り明日出発する」
「……明日……そうですか」
「…………ツアーが終わったら、そのまましばらく向こうに残ってアルバムを作ることになった」
思ってもみなかった衝撃の一言に、私は一瞬頭が真っ白になった。
「しばらくって……!」
「早くて三ヶ月、長引いて半年くらいじゃねーか?」
「…………そう……ですか」
突然のことで、うまく考えがまとまらない。
半年も、アイシさん達と会えなくなるんだ。
そりゃ、すぐにまた元通りになれるとは思っていなかったけど、それにしたって海の向こうは遠すぎる。
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