無価値なもの

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まだ、ほんの少し明るい空に、満月がぽっかりと浮かんでいた。 今夜の月は、一段と綺麗だ。 だけど、私の心はすっかり疲れきってしまって、この月の美しさに感動する余裕なんてない。 薄暗い階段を上っていく途中で、いろんな事を考えていた。 大切な人達の事。 今暮らしている日々の事。 そして、これからの事。 どれをとっても答えなんてでるものはなく、ただ胸が押しつぶされそうになるのを感じた。 そんな苦しさを紛らわせるようにして、階段を上るペースを早めていく。 どんなに考えても、変わらない現実。 祈っても、戻らない過去。 せめてこの気持ちを誰かに吐き出せたら、少しは楽になるんだろうか。 一緒に月を眺めてくれる誰かがいたら、 ……少しは、明日を迎える気にもなるのだろうか。 あの頃感じていた温もりや安らぎが、遠い昔の記憶として薄れてしまいそうで、それが何よりも怖かった。
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