恋をした瞬間

3/20
前へ
/20ページ
次へ
「っ――! 誰だ!?」 「あ?」 振り向き様に、相手を威嚇するかのように睨み付ける。 ただの不良でしかない自分の対応が何だか切ない。 だが、相手は全く動じなかった。 「……お前、僕の場所で何泣いてるんだ。迷惑だ」 それどころか氷のような冷たい言葉を投げ掛けてきた。 思わず固まってしまう。 「固まるなよ。冗談だ、けど邪魔だ」 「邪魔は否定しないのかよ!?」 「事実だ。というかお前誰?」 「わ、私は――」 え、何で私が名乗ろうとしてるんだ。 名乗る必要は無いよな……こんな失礼な奴に。 私は名乗ろうとした口を止め、代わりに舌を打つ。 いきなり現れた男をギロリと睨み、立ち上がった。 男は死んだような瞳で私を平然と眺めている。 鬱陶しい前髪、しかもボサボサ。 黒すぎるくらい黒い髪はまるで手入れされていなかった。 背も私と同じくらいだろうか。 顔付きだけ見れば、大したイケメンである。 けれど、それを雰囲気が台無しにしていた。 何というか……暗っ! 「あんたに名乗る必要無いね。そういうあんたが誰だよ?」 「確かに、僕に名乗る必要は無いな。まぁ、そう言ってしまえば、僕がお前に名乗る必要も無いだろ」 うっ! こ、こいつ……中々正論を言いやがる。 確かにその通りだけど、何だか腹が立つなぁ。 「ふむ。オーケー分かった。お前、取り敢えず道を空けてくれないか? 僕はあのベンチに座りたいだけだ。あそこは僕の定位置なんだ」 「断る」 「えぇ!? 心狭いな。お前、どれだけ理不尽な不良だよ」 「ふ、不良じゃない!」 「はぁ? よし、分かった。不良じゃないなら道を空けてくれ。空けてくれないならお前は不良だ」 うぐぐっ! この根暗野郎……口では全く勝てそうにない! 私は渋々と道を空け、男を通してやる。 男は満足そうに頷いて、指定していたベンチへと腰を下ろした。 「道を空けてやったんだから、名前くらい名乗れよ!」
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

619人が本棚に入れています
本棚に追加