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「っ――! 誰だ!?」
「あ?」
振り向き様に、相手を威嚇するかのように睨み付ける。
ただの不良でしかない自分の対応が何だか切ない。
だが、相手は全く動じなかった。
「……お前、僕の場所で何泣いてるんだ。迷惑だ」
それどころか氷のような冷たい言葉を投げ掛けてきた。
思わず固まってしまう。
「固まるなよ。冗談だ、けど邪魔だ」
「邪魔は否定しないのかよ!?」
「事実だ。というかお前誰?」
「わ、私は――」
え、何で私が名乗ろうとしてるんだ。
名乗る必要は無いよな……こんな失礼な奴に。
私は名乗ろうとした口を止め、代わりに舌を打つ。
いきなり現れた男をギロリと睨み、立ち上がった。
男は死んだような瞳で私を平然と眺めている。
鬱陶しい前髪、しかもボサボサ。
黒すぎるくらい黒い髪はまるで手入れされていなかった。
背も私と同じくらいだろうか。
顔付きだけ見れば、大したイケメンである。
けれど、それを雰囲気が台無しにしていた。
何というか……暗っ!
「あんたに名乗る必要無いね。そういうあんたが誰だよ?」
「確かに、僕に名乗る必要は無いな。まぁ、そう言ってしまえば、僕がお前に名乗る必要も無いだろ」
うっ!
こ、こいつ……中々正論を言いやがる。
確かにその通りだけど、何だか腹が立つなぁ。
「ふむ。オーケー分かった。お前、取り敢えず道を空けてくれないか? 僕はあのベンチに座りたいだけだ。あそこは僕の定位置なんだ」
「断る」
「えぇ!? 心狭いな。お前、どれだけ理不尽な不良だよ」
「ふ、不良じゃない!」
「はぁ? よし、分かった。不良じゃないなら道を空けてくれ。空けてくれないならお前は不良だ」
うぐぐっ!
この根暗野郎……口では全く勝てそうにない!
私は渋々と道を空け、男を通してやる。
男は満足そうに頷いて、指定していたベンチへと腰を下ろした。
「道を空けてやったんだから、名前くらい名乗れよ!」
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