紫陽花

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その日以来、女とはこの部屋で会うようになった。 いつものように駅まで迎えに行き、コンビニに寄って、ナポリタンと黒ウーロン茶を二つづつ買って部屋に向かう。 だが、今日の女は違った。 初めて来たときのように、マンションの入り口で立ち止まった。 急にしゃがみ込み、カバンの中を弄っている。 その姿をコンビニのビニール袋を持ったまま、俺は見つめていた。 女はカバンから小さな白い物を2、3個取り出し、花壇の中へ入れた。 不審に思った俺が近付くと、女は俺を見上げながら石灰だと言った。 そして、青い紫陽花の土に石灰を入れると来年咲く時は赤色に変わるらしい、と話す目尻にはシワが寄っている。 俺はふうんとだけ答えて、女を招き入れた。
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