8月15日 一章~四章・ 外伝

6/6
前へ
/6ページ
次へ
203高地の夜 203高地の急拵えの兵舎の一角に ひとりの男が入っていった 中では乃木大将が故郷の栗を焼いている 入ってきた男は乃木に問う 「日本人はまだ戦えるかね。」 乃木は男を見つめると静かにうなづく 男はまたこうも問う 「日本人はどんな戦争にも耐えられると思うかね」 乃木はその問いに驚き 考え、そして答えた 「いかなる時も母を守る子のように」 乃木大将を、男は見た 男は満足気にうなづくと 自らのたくらみに帰っていく 残された乃木はひとり静かに栗の焼けるのを待った 乃木はいつか思い出しただろうか この日、兵舎を訪れた男の顔を 交わした言葉を 人は乃木を愛しては憎むあまり問う 乃木大将は何故死ななかったのかと 乃木大将は何故死んだのかと 乃木大将は沈黙のまま 母を守った子らのために今も故郷の栗を焼いている 栗が焼けては戦場から帰ってきた我が子らを手招いている 貰いにいく者らは嬉しかろう。 もうその子ら以外誰も訪れてくれるな 時代よ。何故あの日、乃木大将に問うたのか (終)
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加