0人が本棚に入れています
本棚に追加
8月15日
三章(B級戦犯者の記録二日目)
この牢獄はもとはどんな建物だったのだろう
入りくんだ地下牢のある古い監獄のようにも思われ
急ごしらえの簡素な収容所のようにも思われる
その牢獄に一頭の馬が繋がれている
それは漆黒の日本の馬だ
今朝から馬は狂ったように暴れている
どんなに中国人が殴り続け蹴りあげても
馬は暴れるのをやめない
血を吐き唾を吐き
濛々と熱い息を吐き
喚き暴れ続けている
狭い、狭い、牢獄のなかで
馬は暴れ続ける
その黒毛のために用意された
B級戦犯という焼き印に
若い馬は心頭怒りにふるえあがって
暗い牢獄のなかで
一頭の漆黒の馬が
中国とアメリカを相手に
戦争を続けていた
首を繋がれ足を縛られたまま
血を吐き、唾吐き
濛々と熱い息を吐き
仲間と走り続けた
あの日のいななきを
見えない太陽に響かせて
(続く)
最初のコメントを投稿しよう!