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8月15日四章(B級戦犯者の記録最後のページ)
処刑される者の傷を洗う者はいないのだろう
その傷を好んだか虫が這っている
今、故郷に帰る事叶ぬ彼は
外側だけ静かに阿鼻叫喚させていた
子供の頃から問う事を禁じられてきた日本の子ら
その子らがいつか黙した問いは
ずっと心に隠していた思いは
彼の悲しみであり、怒りであり、願いだ
それが彼の心の、その内側で
ついに熔鉱炉のように燃えはじめる
何故、何故、何故と
答えを求めのたうっては
心は火を噴き渦巻き自らの脳髄を焼く
階段を一歩一歩上るように迫りくる戦犯処刑の時
彼の心は叫び続ける
国を守る事とは何なのか、正義は何ではかられるのかと
なんてことない土くれの上で
目隠しをして正座している彼
彼はまだ答えを求めている
狂ったように問い続けている
外側だけ静かだった彼は
自身を撃ち抜いた銃声を聞き何を知っただろう
歴史の大河は何もかも飲み込み流れていく
けれど飲み込めないものがあると知る
私たちは川面に一瞬名前を綴り消えていくだろう
伝説が夜を飾る星ならば
歴史が飲み込めなかった者たちは
真昼の星だ
今も自らの問いとともにそこにいて消えない
(完)
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